意欲が出なく、仕事に行けない
仕事や会社が嫌になり、無気力になって職場に行きたくない時は、誰でも1度ぐらいは経験するでしょう。身近な例では、朝、目が覚めても布団からなかなか出ることが出来ず、例えベッドから起き上がっても、力が抜けたような気だるさに襲われ、なかなか職場に足が向きません。なんとか職場についても、「しなければいけない」と分かっているのに仕事に集中できず、帰宅しても不安や心配が心から離れません。悶々として、翌日起きても、また同じようなことが繰り返される。このような釈然としない、無気力感に陥っている人が少なくありません。
無気力状態の様々なケース
心療内科医として無気力について考えると、当然のことですが原因や背景はとても個人差があって、ひとくくりに説明できません。しかし無気力状態を、簡単に特徴的なケースに区別して紹介します。
職場になじめない、仕事についていけない、職場が平和でない、仕事のモチベーションが上がらない
仕事に対して無気力になる原因について、
今から具体的に4つの例を挙げて説明します。
これらに問題があって、無気力になったケースです。
《職場の人に、違和感を感じ、親しみを感じられない》
職員は知り合いや、親戚関係の人が多く、よく言えば家族的であるが、なんとなく自分はよそ者扱いされ、窮屈で仲間意識が持てず、愚痴1つ言えなかった。その上、同僚と言えば、年齢が離れ、話も合わない、気も合わない。このような理由から、なかなか職場に馴染めなかった。懇親会に行っても楽しむこともできなかったし、打ち解けることもなかった。はじめの頃は、仕事だと思って割り切っていたが、どうしても自分には馴染めなかった。そうしているうちに、無気力になって、職場に行くのが嫌になった。
《職場の雰囲気になじめない》
職場の上下関係がきつく、まるでロボットみたいに対応しなければいけなかった。上司の人格にも問題があって自己中心的で、部下の意見に全く耳を貸そうとしなかった。「これをしてくれ」「これは良くない」と命令するだけで、指導、助言もない。みんなピリピリして、苛立ちを覚えているようだった。どうしても職場の雰囲気についていけない、もう嫌になってやる気を失って無気力になった。
《職場が平和でない、対立がある》
職場に入って、気づいたことに、いろんな派閥がある。それも、仕事を優先するようなものではなく、誰々と誰々が組んだり、あるいは派遣社員の派閥、正社員間の派閥、その他無数の派閥がある。また女子職員に対する、見えざる差別があった。会社は、中堅どころの規模で業務成績も良好で、仕事の内容もそう難しくなかったが、派閥の対立、縄張り意識、集団の圧力、そんなことが、会社の中でマンネリ化していた。頑張ったつもりだったが、疲れ果てて頭痛 、肩こり、腰痛、微熱など体の不調も生じた。仕事をしているより、派閥の抗争に巻き込まれ、何をしてるかわからなくなった。割り切って、仕事をしてる人もいるが、自分はそれができず、徐々に、無気力になって会社を休むようになった。
《仕事のモチベーションが上がらない》
職場は、自分のキャリア、学んできたことが、全く生かされなかった。それどころか、自分のそういった能力は、完全に無視され、まるで機械のように、作業をこなすだけの日々が続いた。就職した時は、自分の希望する部署で、生き生きと働いていたが、理由らしい理由もなく、突然、他部所へ配属を言い渡された。働く意義、意味もわからず「いつになったら慣れてくるのか」と深刻に悩んでるうちに、仕事のモチベーションが上がらず、無気力になった。
〈注意〉プライバシーを配慮し、特定の人の病状について説明してはいません。すべて一般化した内容のものです。
できる事はした。過剰適応と無気力感
就職してすぐに無気力になる人は、めったにいません。はじめは職場のストレスを強く感じていても「溶け込もう」「頑張ろう」「貢献しよう」と努力し続けるものです。しかしストレスが限界点に達すると、緊張の糸が切れたように、やる気を失い無気力になり、すべてに嫌気をさして挫折感を味わいます。周りの人が「しばらく休養すれば」と勧めても、切羽詰まった気持ちになり、辞表を書いて退職することも珍しくありません。ひと言で言うならば、過剰適応の反動、破綻から無気力状態になります。
このような人は、
以上のようなタイプの人が考えられます。
啓蒙活動が進み、上司のパワハラや、同僚間のいじめは、少なくなったものの、職場のストレスはやはり大きいです。競争も激しい上に、協調性が求められ、結果を出さなければいけません。無理な仕事を押し付けられ、残業し、休日出勤もし、せっかくの休日も仕事のことが頭から離れない。このようなストレスのために、過剰適応が裏目に出て、うつ状態になって無気力になるケースもよく見られます。
ストレスケアとカウンセリング
「元気がない、やる気が起こらない」など無気力を、主訴に来院された時は、まず無気力の背景に、うつ状態や、心身症 、不眠症、不安障害などのストレス疾患が隠れていないかどうか判断します。そのために無気力状態の期間、原因、受け止め方そして生活リズムについても質問します。次に、さらに仕事や人間関係などでストレスがなかったかどうかもチェックします。もし、ストレス疾患が原因の場合は、症状に応じた治療が必要になります。明らかな症状を持っていない場合は、ストレスケアを行います。ストレスケアは、カウンセリングの中で、自分自身を客観的に見つめていただき、ストレスに対して柔軟になってもらいます。そのために専門的なアドバイスだけではなく、人生の先輩として、素直な意見や助言も与えます。私は、カウンセリングは、雑談も含め、できるだけ日常的な会話に近い形をとります。それによって話しやすくなり、信頼関係が深まります。
軽症うつ病と無気力
うつ病では、意欲、気力が低下します。特に軽症うつ病では目立った症状が少なく、素人判断では心の疲れとしか映りません。「仕事に行きたい、でも気力が出ない。会社に行っても、仕事に集中できない、ちょっとしたことも決めれない、考えがまとまらない、考えが組み立てられない、普段の自分とは全く違う」と嘆かれます。さらに、眠りにくい、眠ってもすぐ目が覚めるといった不眠もきたし、食欲も出ず、ぼーっとして、体も疲れやすい状態が続きます。軽症うつ病は、抗うつ剤などを投与しつつ、心理療法(支持的カウンセリング)を行い、疲れた心を受け止め、支え、心の不安や緊張を弱めていただきます。しかし、それでも症状が改善しない時は2・3ヶ月休職して心身を休める必要があります。もし、無理を続けするとうつ病が慢性化し、なかなか改善しません。
心療内科医としてのアドバイス
・最初に強調したいのは、無気力状態になった時は、心が疲れているということです。まずそのことを認めてください。「これからどうすべきか?」と気をもんでいると、心の平和が保てません。心の緊張をほぐし、焦りをとりはらってください。
・ストレスが続きどうしても、無気力が、改善されない時は、意見が分かれるかもしれませんが、中途半端に仕事に行くのではなく、思い切って1週間程休みをとって休養してください。
職場や仕事のことが気になった時は、「今は休養中である。考えるのはやめよう」と自分自身に、言い聞かせてください。
少し話が、逸れますが、森田療法と言う心理療法があります。治療の過程は大きく分けて4つに分かれます。最初は、何もしなくても良い時間を持つことです。絶対臥褥期と言って、刺激を避けるため個室にこもり、トイレ・洗面・食事以外は “何もしない” “何もしてはいけない” 1日をただゆっくり過ごします。そうすることで、徐々に本来の活動意欲が、現れてきます。「何かしたい」「何かしなければと」心の底から思うようになります。と同時に、あるがままの自分を、受け入れるようになります。これが森田療法の考え方です。
話を戻すと、休養中の最初は、焦りを感じます。「こんなことでいいのか」「怠けていられない、何かしないと」と。けれども、少なくとも3日間は、のんびり構えてください。そうすれば良い意味での開き直りができ、「あれもしたい、これもしたい」と本当の活力が湧いてきて、そのうちに「仕事に戻って、みんなの顔が見たい、自分の席につきたい」そのような欲求が自然に現れてきます。後の4日間は、体を少し動かし、したいことをしてください。
けれども、家族も心配だと思います。「休職して本当に良くなるのか?」と家族も不安になります。しかし、「元気を出せ」と追い詰めてはいけません。暖かく、見守ってあげてください。
・気持ちに余裕ができた時は、友人に会って、「君ならどうする?」とアドバイスを求めましょう。疲れた時は、自分自身を客観視できません、それよりも友人の方が、自分についてはっきりと、見えることがあります。困ったら助け合うのが友情です。
・無気力状態が続くと、生活が逆転し、夜型になりやすいです。これも良くありません。心の回復力が弱まります。決まった時間に寝起きして、栄養のバランスを考えて食べる。また家にこもらず、できるだけ外出し、外の空気を吸う、このようにして、生活にリズムをつけてください。
・無気力になるのは、目標、生きがい、希望、を失った時です。けれども「新しい目標を見つけなければいけない」と、落ち着けません。しかし、すぐに見つかるとは限りません、と言うよりは、元気が出ず、空回りします。そんな時は、先走らないように、気を楽にする。そのために、楽しかったこと、がんばったことを思い出して、自分をいたわってください。
・心の疲れが少し取れれば、ストレスを整理し、過去を振り返り、将来の目標を考え、「本当にしたい事は、何なのか?」「できる事は、何なのか?」「すべき事は、何なのか?」「自分に欠けているものは、何なのか?」「自分が成長するには、どうすべきか?」自分なりに考え、前向きになって、方向性を打ち出しましょう。
・無気力になっている時は、人間関係にも敏感になって、心がすごく疲れています。職場の人間関係について考えてみましょう。人と接する時・少し肩の力を抜く・相手の言動について考えすぎない・気を使いすぎない、つまり自然体を心がけて、あるがままの自分を表現すべきです。そうすれば周りの人も気を使わず、人の輪も広がり、職場に行くのも楽になります。
・職場以外の人間関係も大事にしましょう。例えば、ボランティア 、地域復興の会、NPO活動、郷里の会、あるいは趣味の会等に、参加してみましょう。そこで様々な人と出会い、交流を深める。「こんな生き方もあるんだ」「こんな考え方もあるんだ」など触発され、視野が広がり、仕事以外の生きがいなどを発見し、それが生活に躍動感を感じさせ、無気力感から脱却ですることにもつながります。
まとめとして
長い人生、「何もかもが嫌になる」「何もしたくない」といった無気力状態になるのは、よくあることです。私たちの社会は、物質的には豊かになった反面、とても複雑で、精神的なストレスが絶えません。心は疲れ挫折し、傷つきやすくなってます。努力するが、結果が出ない、空回りするようなスランプの後「自信が持てない」「自分の存在理由がわからない」「自分のしていることに、喜びが感じられない」と何となく虚しい感じになります。かといって何をしたいのかわからず、仕方なく生活を送る。このような気だるさは、口には出さないものの、多くの人が、経験すると思います。無気力状態が続くなら、大胆な意見ですが、見方を変え、それは自分を見つめ直す機会として、受け止めてみてはいかがでしょうか? 今までの自分を振り返って、「何がよくて」「何が良くなかった」など、見つめ直してください。そしてこれから「どうあるべきか?」」「どうすべきか?」など、自分なりに、答えを見つけ出すチャンスと考えてください。単調、空虚、退屈な生活に終止符を打ち、1歩前に踏み出し、すべきことをしながら、したいこともする、マルティプルな生活に変えていきましょう。
最後に
私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。
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