人間関係がストレスになる

視線、体臭、外見が非常に気になる

心療内科医としての治療とアドバイス


人間関係での圧迫感、社会不安障害についての説明と治療及びアドバイス

人間関係がストレスになる

 

人間関係のストレスを強く感じ、悩まれ、心の健康相談を受ける来られる患者さんがいます。別に、人間嫌いでは無いのですが、人といると、とても疲れます。雑談したり、冗談を言って、相槌を打つだけでも、気楽に対応できず、苦痛になります。カウンセリング(問診)の中でよく話を聞くと、「お互いもっと理解しあいたい、親しくなりたい、」と願う一方で、「相手から誤解、拒絶されるのでは?」と不安になり、人付き合いを避けます。そういったジレンマを強く感じ、どうしても人間関係が表面的になり、作りたくても、友人や恋人ができない。このような悩みのため、気持ちがとても重ぐるしくなります。

 

 

社会不安障害と他人の評価

 

社会不安障害と呼ばれるストレス疾患では、他人の言動 動作 評価 に敏感になりすぎて、引け目を感じます。私たちは自分のことを、他人がどうのように見ているか?どのように評価しているか?気になります。社会不安障害では、程度の差こそあれ、、初めて会った人、少し知り合いになった人に、違和感を感じ、人見知りがとても強くなり、自分の居場所がないような圧迫感を感じます。「あの人は自分をどんなふうに見ているのか、」とても心配し、その不安がなかなか消えません。

 

社会不安障害の症状とは

 

一昔前の社会不安障害の症状は、具体的な症状が多かったです。

  • 人前に出ると顔が赤くなる
  • 自分の口臭体臭が気になる
  • 自分の目つきがきつく、他人が嫌がる
  • 公衆便所でトイレができない。
  • 外見を気にする、毛深い、顎が出ている

このようなこだわりと不安です。

 

しかし、最近では具体的な症状よりも、気づかれないような、目立たない、軽い症状に変化してきてます。もしそのことを言えば、「本当にそんなことを悩んでるの?」と首をかしげられるかもしれません。例えば、「人付き合いがうまくできない。そのために気持ちが落ち込む。」とか、「職場の人といると、何か喉につかえるような感じがして、食事ができない。」「オフィスで横の人のことが気になって、仕事に集中できない。」このような不調感で悩まれます。

 

なぜ人間関係のストレスを強く感じるのか、その原因と背景について

社会不安障害の成り立ちは、とても複雑です。

それは4つの要因が考えられます。まず第一に、きっかけです。

  • 些細な失敗
  • 恥をかいた経験
  • 授業中言葉が詰まった
  • クラスメートから顔つきがきついと言われた

このような不愉快な経験が、心の中に忘れられない思い出ととして残っています。

 

次に、家族の事情で転校を繰り返し、親しい友人ができず孤独を感じた。家庭環境が厳しく、精神的に萎縮した。両親が忙しく甘えることができなかった。そういった環境要素も原因として挙げられます。それだけでなく非常に繊細で、感じやすい、性格も関係します。ぜひ理解していただきたいのは、社会不安障害は日常のストレスにも関係します。ストレスが大きくなると、他人に対する違和感、逃げ場のない圧迫感が非常に高くなってきます。ストレスのため自信を失いない、症状が持続することもあります。


社会不安障害の心の内

 

私たちは、無意識のうちに他人の意見、行動、評価を通じて、おぼろげに自分自身を知るようになります。「自分にはどのような価値があるのか」「どんな点が自分の長所かあるいは短所か?」「どのような人に、必要とされているのか?私は誰を、必要としているのか?」つまり“真の自分とは何なのか”心理学で言うアイデンティティーの問題です。アイデンティティーは人との触れ合い、様々な活動、そして試行錯誤を通じて自然に獲得されるものです。けれども、それを早く意識し悩みすぎると、一概には言えませんが、人付き合いがしんどくなってきます。社会不安傷害の患者さんの心の中は、アイデンティティーの確立について潜在意識の中で悩み葛藤します。社会不安障害の背景に、このような心理が隠されています。

 

 

 社会人としてのストレス

 

学生時代は、気ままに、自由にできたものの、社会人になれば、人付き合いは避けて通れません。同僚と良好な関係を作らなければいけません。気兼ねしたり、遠慮する、けれど、自分の意見も言え、冗談も言い合える、つまり相手と適当な距離が取れる。そのような関係です。しかし社会不安障害があると、それがとても負担になります。「仲良くしなければいけない、嫌われてはいけない!」など自分を追い詰めます。そしてオフィスでは、上下関係が待っています。また社外の人間関係も広がっていきます。その上、責任がかかり、結果も出さなければいけません。そういったストレスが加わると、不安が高まり神経が張り詰め、鬱々とし、誰にも相談せず、突然退職することもあります。

 


自らの長所と短所を理解する

 

社会不安障害の方の傾向としては、・他人の考えや気持ちを深く考えすぎて、自分の意見や考えが言えない・繊細すぎて、ストレスを感じやすく傷つきやすい・人といると気を使いリラックスできない・辛いことを言われても黙って我慢する。このような性格の特徴が、心を苦しめているのです。しかしこれは短所でもあり長所でもあります。よく気が付くのは、人としてとても大切なことです。それは思いやりです。繊細さは、アートやクリエイティブな仕事には必要です。望まれるのは、このような性格的な特徴を状況に応じて、柔軟性を持って活かすことです。

 

 心療内科医のアドバイス

 

  • 「過ぎたるは及ばざるがごとし」の心境で必要以上に、相手に気を使うのは止めましょう。
  • 相手の気持ちを察すぎない、読もうとしない、確かめようとしない。
  • 自分の長所に気づき、そこに注意を向ける。「私にはこんな良いところがある。それをもっと活かしていこう!」と前向きになる。
  • プライベートでは、自分の感じたこと、思いついたこと、言いたいことを、できるだけ表現する、つまり口に出しましょう
  • 他人のいわれなき批判や皮肉に対しては、心を強く持つ。「彼の言ってるのは、取るに足らないつまらない、」と軽く流す。
  • もちつ持たれつの精神で、親友や恋人には遠慮せず、気になることを打ち明けましょう。相手も「自分を信頼してくれてる」と親しみを感じるようになります。
  • プライベートな人間関係は上下関係ではなく、指示したり従う関係ではありません。ときには、意見をぶつけ反論したり口論したり、つまり雨降って地が固まるような関係も築きましょう。
  • どうしても症状が強く人間関係で疲れ果てた時は、自分1人の時間を持ちましょう。思い切って1人旅に出たり、1人居住まいを始めたりするのも良いかもしれません。またスマホやパソコンの電源をきって、孤独に身をおいても良いでしょう。しばらくすると心に余裕が生まれ、「どうしてるかなぁ、会いたいなぁ、!」と人が恋しくなります。徐々に人付き合いが緊張の関係から、喜びの関係に変わってきます。

社会不安障害がひどくなると

 

社会不安障害が続くと、不安が広がり心の中がとても行き詰まり、気力が失われます。活動にブレーキがかかり、人付き合いを避けます。結果として、孤独になって、気持ちが沈みます。自分では「それは良くない」と充分に、わかっているのですが、人間関係でのストレスを考えると、どうしても積極的になれません。このため、気持ちがどんより曇り、自己否定 自己嫌悪などを感じ、うつ状態をきたすこともあります。

 

ストレスケアとカウンセリング

 

心のケアの中心は簡単に言うと、人間関係に慣れてもらうことです。そのために、カウンセリング必要になります。最初に、症状を把握するために、心理的な背景、性格的な特徴 、症状の程度を、明らかにします。 必要ならば補助的に、心理検査を行います。もし不安が強く、うつ気分が伴っている時は、抗うつ剤や抗不安剤等を、服用してもらって、心の緊張を弱めてもらいます。と同時に気になっている事、心配なことを、できるだけ、感じたまま話してもらいます。その気持ちを受け入れ、理解し、「そういうことだね!」など要点を整理し、アドバイスを送ります。次にストレスケアを行います。・ストレスの度合い・ストレスの因子・ストレスの原因などを、質問し問題を明らかにして、どうしたら良いか助言を与え、ストレスに柔軟に対応していただきます。このようなコミニケーションを通じてラポール、治療者と患者さんとの信頼関係が形成されて行きます。しかし、心のケアを受ければ、すぐに気持ちが晴れて、不安がなくなるのではありません。人に対する無意識の不安が、医者やカウンセラーに置き換えられて、カウンセリングが、行き詰まり、釈然としないと感じが、残る時もあります。。そういったことも乗り越えてケアが継続されると、あるがままの自分を認め、受け入れられたと言う気持ちになり、人といる時に、さほど苦痛を感じなくなります。


まとめとして

 

社会不安障害は、他人に対して気配りや配慮を重んじる、わが国の文化に根ざしているように思います。自分の気持ち、 自分の感じていること、 正しいと思うことを、言葉や態度で、オープンにする西洋人の価値観とは違って、どうしても日本人は自己主張が弱くなります。意見の分かれるところですが、わが国では、たとえ自分が正しい考えだと思っていることでも、主張することより、周りの人の考えや意見を読み、調和し協調します。言いたいこと、感じたことを、控えめに表現し、抑えてしまう傾向は、私たちの文化であり、社会の要求であるとも考えられます。社会不安障害の患者さんが、日本人に多いのは、このような文化 土壌があるからだと思います。社会不安障害で悩まれる方は、その悩みや不安は、自分だけの個人的な問題として捉えず、そのようなことを視野に入れて、できるだけ自分自身を表現してください。

 

最後に

私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。