人前で強い緊張感

恥が誘因

心療内科のイメージ療法とアドバイス


人前で言葉が詰まる、手が震える、対人緊張についての説明と治療及びアドバイス

人前で言葉が出にくい、手が震え字が書けない

 

大勢の人に見られたり、あるいは人前で発言すると緊張感が高まり、話にくくなり手が震えるような経験は誰にでもあるでしょう。人間関係においては、ある程度の緊張感は付きものです。しかしその緊張感が強すぎると、様々な心身の不調が生じてきます。対人緊張症(恐怖症)と呼ばれるストレス疾患では、他人や集団に対して、知らず知らずのうちに、強い緊張感に襲われ特有の症状が現れます。

 

 

対人緊張症(恐怖症)の症状について

 

今から、症状について列挙します。

  • 人前で話をする時、手足が震え、表情がぎこちなくなり汗をかく。
  • 他人といると、喉がつかえ食事がしにくい。
  • 職場で、周りの人が、聞いていると思うと、電話応対がスムーズにできず、会社の名前も言いにくなって、どもってしまう。
  • 書類に記入したりサインする時、他人の視線が気になり手が震えて書けない
  • 公衆便所に入ると、何となく落ち着かず、トイレができない。
  • 他人と話をする時、自分の視線や目のやり場に困り、相手の目を正視できない
  • 以上のように、症状はケースバイケースです。しかし共通して言えることがあります。人間関係のストレスを強く意識して、精神的に、重ぐるしく感じ、プレッシャーで押しつぶされそうになっています。

 

ストレスと緊張感

 

患者さんは、自分だけや友人 家族と一緒の時は、そのような症状は起こりません。電話に出て、ハキハキしゃべり、字もすらすら書けます。外食時も、家族や親しい人なら食事を楽しむこともできます。ということから、体のどこかが悪いのではなく、とても心理的な症状です。「そのような場面 状況になれば、症状がまた起こるのでは?」と言う不安が生じ、「まるで自分の居場所がそこにはない!」と言うような圧迫感を感じます。

 

対人緊張感が、ひどくなると

 

症状が続きひどくなると、他人の動作や視線が非常に気になります。「今度、症状が起き起これば、恥をかくだけではなく、きっとおかしな人に思われる」このような心理から、心が委縮し、後ろ向きになります。会議のある日は会社を休み、飲み会や会食会を欠席し、結婚式のスピーチを避け、葬式の記帳を辞退する。このように、行動にブレーキがかかり、人付き合いがとて狭まり、ふがいなさを感じます。

 


緊張感で、悩める人の心の内

 

患者さんは、自分のことをよく知らない人といると、特に職場では、まるで入学試験や、就職の面接試験を受ける時のような緊張感を感じ、ひどくなると、息苦しさ めまい 動悸などの体の症状が現れ落ち着けません。「失敗は許されない!」と自分自身を追い詰めます。

 

 

対人緊張性(恐怖症)のきっかけ

 

きっかけは、些細な失敗、人前で恥をかいた経験、他人の何気ない一言です。言葉が詰まって皆から笑われた。「顔が赤くなる」とからかわれた。このような他人の悪ふざけや、学校の先生から「字が汚い、心こめて書きなさい」「声が小さい、ハキハキ返事をしなさい」など注意されたこと。そのような不愉快な経験が、きっかけになることが多いです。しかし、人によっては、きっかけらしいきっかけもなく、会議に出席したり、電話をとると、突然そのような症状が現れることもあります。

 

 

対人緊張感の原因について

 

原因について簡単に説明します。自律神経系機能が、強い緊張感により、一時的にバランスを失うためです。この自律神経とは、環境や状況の変化に、私たちの心身が影響を受けないように、体の機能を一定に保つ働きをします。しかし、ストレスを強く受けると、心の中の緊張が高まり、その緊張感によって自律神経機能はバランスを失い、いろんな体の不調が生じます。症状としては、説明したように・手足が少し震える ・言葉が出にくい ・汗をかく ・ドキドキする ・少し息苦しくなる。このような症状です。なぜそこまで緊張するのか?失敗したときの恥ずかしさや、辛い思い出が、どうしても、忘れられず自意識が過剰になるからです。「また失敗する」 「また恥をかく」と悩み、悶々とします。そのような時に、「はっきりと言えないのかね」「手が震えているね。何か動揺しているの!」など指摘されると、無力感に襲われ、やり場のない思いがします。ここでぜひ理解していただきたいのは、生活の中で、様々なストレスが重なると、知らず知らずうちに、そのような不調感や症状がひどくなることがあります。・ストレス ・不安・こだわり ・自己嫌悪感 ・自意識の過剰このような悪循環が心の中に形成され症状がなかなか消えません。

 

自分を抑えてしまう、自己抑制の強い人にこのような症状が多い

 

患者さんは、恥ずかしがり屋で、上がりやすく、気の弱いタイプの人を、想像されがちですが、決してそのような人ではありません。私の印象では、とても几帳面で、礼儀正しく、責任感の強い人です。職場ではリーダーシップを発揮し、信望が厚く、責任ある役職についてる人も珍しくありません。親切で思いやりがあって、気配りも行き届き、家族や友人からも慕われる、しっかりした人でがほとんどです。しかし、考えすぎて、言いたい事を、口に出さなかったり、自分の気持ちを抑え、感情的にならない人です。冷静すぎると言うよりは、自己抑制が非常に強い人です。周りとの調和を考えすぎ、他社配慮をしすぎて、知らず知らずの間にストレスを溜め込む性格です。

 


メンタルリハーサルによる、緊張の緩和

 

メンタルリハーサルとは、心理療法の1つです。不安や緊張それに気になっている症状を打ち消すような光景や状況を、イメージしたり、想像するすることにより、症状を改善する治療法です。イメージを用いた瞑想、あるいはリラックスした座禅であると思ってください。今からその方法を、簡単に説明します。方法は決して難しくありません 。メンタルリハーサルは、いつ、どこで、、それを行うか人の好みですが、私が勧めたいのは、朝起きた時が1番良いかと思います。最初は、休日の朝を選んで下さい。朝起きて、布団の上で横になっている時、体全体の緊張も取れて、布団の中のぬくもりで、体も少しポカポカ暖かく、とても気持ち良く「このままずっと横になりたい!」と思うようなリラックスした状態です。まず布団の上に仰向けになって、手足を大きく開いて、しばらく布団の上で、ゆったりして下さい。次に背筋を伸ばし、手足を屈曲させるなど簡単なストレッチ運動しましょう。そうすると、一段と、体の緊張感が取れてきます。今度は腹式呼吸を行います。お腹を膨らまして、ゆっくり大きく息を吸い、ゆっくり吐く。このような腹式呼吸を、5回繰り返してください。気分が楽になったところで、軽くまぶたを閉じ、つぶやきましょう、“今自分は気持ちがとても落ち着いている”それを繰り返してください。次にイメージトレーニングに入ります。例えば 、“青空の下で広々とした野原に自分1人がいる”そんな光景を、心の中に描きましょう。“とても空気が澄んでいて、この空気を吸っていると、気持ちが安らぎ、自然の中に溶け込み、のんびりする”そういった光景をイメージしてください。完全にイメージを浮かべるのではなく、ぼやけたイメージでも結構です。このようにイメージすることによって、リラックスが、もっともっと深まってきます。最後に、自分が気になっている状況を、上手に乗り越えている場面を想像しましょう。例えば“ハキハキと電話で答えている” “すらすら字を書いてる”ところを想像しましょう。もし、そのような光景がイメージできない時は、軽く目を開けて、再度腹式呼吸を5回しましょう。さりげなく、イメージが浮かぶまで、軽く目を閉じて待ちましょう。そして、“自分は今くつろいでる” と繰り返し、心の中でつぶやいてください。イメージトレーニングが進むと、不安が少なくなり、緊張場面があっても、症状は軽くなります。また日常生活の余計なストレスに対して、気にしない、考えすぎない、悩みすぎない、そのようになります。つまりストレスコントロールが、徐々に上達してきます。

 


心療内科医としてのアドバイス

 

自分に優しく

「こんなことで、苦しめられている自分が情けない」と非難してはいけません。「真剣に、真面目に、取り組んでいるから緊張する!」と思ってください。何よりもまず、自分に優しくすることが大切です。それを忘れてはいけません。

 

即断しない

症状に苦しめられて、気持ちだけが先走り、会社をやめたり、仕事を変えたり、会食会や結婚式を辞退するのは、良くありません。それは1種の逃げであって、問題の根本的な解決ではありません。そのような心理の背景には、「症状がなければ、何もかもうまくいく」「新しい環境でやり直したい。そうすれば症状が出ないのでは?」と気持ちが、はやるのです。新しい環境に変わっても、症状が改善する保証はありません。それどころか、後悔することが多くなります。

 

できるだけ自己主張を

仕事を離れて、プライベートの時間は、感じてることを声に出してみましょう。例えば“気分が良い” “ウキウキしている” “うれしい 楽しい” “愛らしく思う” “美しく感じる” 。少し難しいかもしれませんが、よくない感情も言葉に出してみましょう。もし言葉に出したくなければ、心の中でつぶやいても結構です。“悲しい” “辛い” “腹が立つ” “にくい” “うらやましい”。今の自分の気持ちを表現することが、高ぶった心の緊張感を弱めることになります。そのような自己主張訓練をしましょう。

 

マイナス思考を改める

このような症状が起きれば、どうしてもマイナス思考に傾きます。 “情けない” “自分が嫌だ” “自分はみんなとは違う” このようなマイナス思考は心を萎縮させます。いかに強靭な人でも、ストレスが続き、緊張の糸が張り詰めた状態では、心の中はマイナス思考に傾きます。しかしその変化は無意識に起こり、気づきにくいです。ストレスが続くと、誰もが、神経が張り詰め、悲観的になります。大切な事はそれに気づき改めることです。

 

プラス思考を

マイナス思考を打ち消すためだけではなく、心にゆとりを持つために、積極的にプラス思考に変えていく必要があります。 自分自身を見つめ直し、・自分の長所 ・今までの努力 ・隠れた誠実さに目を向けましょう。そしてこんな言葉をかけてください。「私には、こんな長所 才能がある。気づかなかっただけである。今まで他人から感謝されたことも忘れてた!」このように、自分自身を再評価し、褒めてください。

 

ミスや失敗に寛容に

どのような人でも、失敗し恥をかきます。けれど、わざとミスするわけではないのですから、その人の人格が疑われたり、その人の価値がなくなることはありません。症状が起きてミスしても、自分を追い詰め責めてはいけません。適度に妥協し、気持ちを軽くしてください。そして恥を恐れてはいけません、取るに足らないミスには、「まぁいいか!」と軽く流してください。たわいもない失敗で恥をかく姿は、周りの人から見ると、人間味を感じさせ、親しみを感じるようになります。そのよう前向きに考えて、1歩踏み出してください。

 

リラックスしましょう

患者さんは常に、症状が気になり、リラックスがとても少ないです。。嫌なこと 辛いこと 不愉快なことを引きずらないために、のんびり、くつろぎ、一休みする時間を持ってください。少し余裕ができたら、自分がしたいこと 好きなことをしましょう。“好きな人とあって、時間を気にせず楽しむ” “少し体を動かしてリフレッシュする” “趣味を楽しむ” “好きな映画を見る” “好きな音楽を聴く” 決してお金や時間の無駄と考えずに、リラックスのための時間は、かけがえの無い自由な時間であると思ってください。

 

治療とストレスケア

 

心療内科では、症状が強く不安が強い時は、緊張感を和らげる抗不安剤と、手の震えや、動機を弱めるβブロッカーと呼ばれる、自律神経を安定させる薬を処方します。一般的には、常に服用するのではなく、症状が起こりそうな時、頓服として服用してもらいます。服用後約1時間もたたないうちに、緊張感が弱まり、自律神経も安定し、たとえ症状が起きても軽くなります。このような薬物を処方すると同時に、ストレスケアも行います。ストレスケアとは、カウンセリングを中心とした心理的サポートです。といっても、深く洞察するようなカウンセリングではなく、症状や気になっていること、日々のストレスなど、できるだけ自由に、感じたまま、会話をしながら、気持ちを整理していただきます。しゃべることで今まで抑えていた感情や気分が発散され、心の緊張感が弱まり安心します。さらに、ストレスに柔軟になるようなアドバイスも送ります。

 


まとめとして

 

このような症状で悩まれる方は、・何かにつけ我慢しすぎる ・考えすぎて行動に移しにくい・言いたいことを遠慮し、口に出せません。そのような傾向があります。「これは良くない」「こうあるべきだ!」と自分を律し、嫌なことも我慢し続けます。無理な頼まれごと相談事も引き受けて、真剣になり、ほどほどに対応できません。その上、他人の評価に敏感で、他人との摩擦を避け、他人に合わせすぎます。別に“みんなから好かれとよう”と言うわけでは無いのですが、過剰に他者に気配りする、相手の言葉や態度 表情 を深く読み、知らず知らずのうちに、「相手にとって、何か不快なことをしたのでは?」など自問自答を繰り返します。これが対人緊張感で悩める人の心の特徴です。よく考えると、とても模範的な社会人で常識人です。しかし、心療内科医の立場から言うと、このように自己抑制して他者配慮が強い人は、ストレスをすごくため込む人です。そのために、心の中が窮屈になり、もどかしさを感じます。「もっと自然に、自分らしさを出してほしい!」と私はよく思います。そして患者さんに、「自分の気持ちを楽にしてください、取るに足らない些細なストレスは、無視して、無関無、無頓着になってください。それがあなたには必要です。」と述べます。

 

最後に

私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。