はじめに
心療内科では、睡眠障害は最も多く見られる症状です。特に不眠症について相談を受けない日はないほどです。「不眠症と眠れないのはどう違うのか?」「不眠症はどんな原因で生じるのですか?」「睡眠薬は癖にならないのか?」このような質問です。
不眠症とは
不眠症とは、単に睡眠不足を感じるだけではなく
・寝付きが悪い
・何回も目が覚める
・早朝に覚醒する
・熟睡感が得られない
・日中眠気 がしてだるさが残る
このような不調が、週三回以上続く場合、不眠症が考えられます。
不眠症では睡眠時間が少なくなるだけでなく、睡眠の質も変化し眠りがとても浅くなります。
このため「夢ばかり見て寝た感じがしない」「物音ですぐに目が覚める」そのような睡眠の不調が生じます。
不眠症とストレス
心療内科に、不眠で来られる患者さんの多くは、精神的なストレスで悩み、緊張し、不眠が生じています。もちろん、不眠の原因はストレスだけでなく体調や、生活リズム、騒音など寝室の環境も大きく関係します。しかし、なんといってもストレスを抜きに不眠症は語れません。残業が続く、ノルマが課せられる、職場での人間関係の対立や亀裂、 また恋人や友人 家族との別れ、急に孤独になり寂しくなって、後悔し、なぜそんなことが起こったのか?悩み、眠れません。例えば「やる気のない上司にうんざりする。彼のことを考えると、夜になるとむしゃくしゃして眠れない。」「遠距離にいる恋人から連絡がない。心配になって眠れない。」このように不眠の原因や背景は様々です。ただ共通する点は、ストレスによって心が緊張し、くつろぎの夜の時間が、いつしか不安な時間に変貌しています。
睡眠のリズムと不眠症
睡眠には、一定のリズムやサイクルがあります。眠るに入ると、とどんどん深くなっていくのではなく、次に浅くなり、また深くなる。このようなサイクルが約90分間に1回繰り返されます。また睡眠中は心が完全に休んでいません。レム期と呼ばれるサイクルでは、体は寝ているのに心( 脳 )は少し活動しています。ちなみに、この間は夢を見ていることがほとんどです。このような睡眠のリズムは一定ではなく、変化しやすく、乱れやすいです。
例えば、
・ストレスで神経が高ぶる
・寝室が変わる
・時差のある外国に行く
・深夜勤務が続く
・お酒を飲みすぎる
このようなことで、睡眠のリズムが変調し、たとえ睡眠時間が足りていても寝た感じがしない、つまり熟睡感が得られなくなります。
不眠症と性格
不眠症になりやすい人は、取り越し苦労が強く、小さなミス、あるいは人間関係のちょっとした問題を、深刻に受け止めます。しかも自己主張が少なく、言いたい事を、口に出さない人です。要するに、自己抑制が強い性格です。仕事 、人間関係 、将来について悩み、心の緊張がなかなか取れません。このような性格に、強いストレスがかかったり、環境が大きく変わると、不眠が生じます。
ストレスのために、寝れない人へのアドバイス
眠れないからといって、むやみやたらに、不安に感じないでください。「眠れないと、明日仕事にならない集中できない。」など、自分を追い詰めないでください。また、ストレスに対して「今解決しなければいけない。」とやきもきせず、「明日は明日の風が吹く。」と気を楽にしましょう。「たとえ眠れなくても、横になってのんびりすれば、心身の疲れは取れる!」と余裕を持ってください。気を紛らすことも必要です。好きな音楽を聴く 、好きな映画を見る。親しい人に、ストレスを話す。このようにして心を休めてください。
イメージトレーニングによるリラクゼーション
今からイメージを利用して、リラックスする入眠法を説明します。方法は、簡単です。ベッドの上に仰向けになってください。または、椅子に楽に腰かけましょう。次に背筋を伸ばし、 両足両腕 に力を入れて、次は力を緩める、このようなストレッチ運動を数回行いましょう。体の緊張感がほぐれて、少し体全体がポカポカぬくもりを感じたり、重感と言って、体が布団の中に沈んでいくような重い感じがします。その時は、体の緊張はかなり弱くなっています。次に腹式呼吸を行います。お腹を膨らますような気持ちで、大きくゆっくり息を吸い込み、少し止めて、ゆっくり吐きましょう。このような腹式呼吸を5回ほど繰り返しましょう。最後に、軽く目を閉じて、リラックスしているところをイメージします。例えば、雲1つない広い野原に、寝転んでいるところを想像してください。“ とても空気が澄んでいて、周りにはのどかな景色が見えてくる ” そのような場面を想像してください。はっきり想像できなくても、ぼんやりしたイメージでも効果があります。そして、「のんびりくつろいでいる。」と数回つぶやいてください。リラクゼーションが進みます。すぐに入眠できるかもしれません。もし効果がない時は、安らぐ音楽を聴きながら、イメージしてもよいでしょう。「試しにやってみよう。」など軽い気持ちでスタートしてください。このイメージ療法は、とてもデリケートな治療法です。気を楽にしてマイペースに行いましょう。最初は効果がなかっても、あきらめず続けていけば、必ず心身の緊張が取れて、眠れるようになります。
心療内科医としてのアドバイス
大切な事は、当然のことですが寝る前は、くつろぎましょう。「眠れないから焦る、焦るから眠れない。」このような悪循環を、取り除き、生活にリズムをつける。そのために以下のようなアドバイスを送ります。
不眠症の治療とストレスケアについて
ストレス性の不眠症には、最初は睡眠剤を処方するのではなく、抗不安剤を処方します。抗不安剤はマイナートランキライザーとも呼ばれます。その種類はいろいろありますが、翌日に眠気が残らないような、短時間作動性の抗不安剤を服用してもらいます。薬の効果としては、服用後30分から1時間もすればイライラ、不安 、心配が少なくなり、あくびが出て自然に眠れます。翌日は、不安も軽減されています。しかし、ストレスが強すぎ、不安が高まった時は、抗不安剤だけでは効果がない時があります。その場合は睡眠剤や睡眠導入剤を併用していただきます。けれども、このような薬に対する誤解、偏見があります。「飲むと良くない。」と家族に言われ服用をためらい、不眠症が改善されず慢性化し、生活が、昼夜逆転するようになることもあります。抗不安剤や睡眠薬は、非常に安全性が高い薬です。処方通り服用していただければ、心配は無用です。
次に、ストレスケアについて説明します。ストレスケアとは、何か特殊な治療法のように思いますが、そうではありません。医師、臨床心理士、認定心理士との会話を中心とした心のケアと考えてください。特にストレス性の不眠症では、気になってること、不安などをカウンセリング中に、感じたままに、自由に、話すことが治療になります。カタルシス効果と言って、気になることをしゃべるだけで、不安が半減されます。不眠症が改善し心にゆとりが生じたときは、「何がストレスになっているか?」「どのように対応すべきか?」を整理していただきます。そのような心のケアが、ストレスの不眠症にとても大切です。
うつ状態と不眠症
もし不眠症がひどく、どうしても眠れず不安になる。眠ってもうっすら寝てるだけで、すぐに目が覚める。翌日も、疲れが取れず仕事に行けない。このような日が続くなら単にそれはストレスからくる不眠症ではありません。1日中虚しく、億劫で、考えがまとまらない、そんな時はうつ状態が考えられます。けれども、判断力も低下し、受診をためらいます。そのような時は、周りの人が受診を進めてください。早急にうつ状態の専門的な治療が必要です。もし症状が改善しない時はしばらく、休養しなければいけません。
まとめとして
私たちの心は、コンピューターのような機械ではありません。コンピューターであれば、スイッチを切ればすぐに止まります。しかし私たちの心は布団に入れば自然にスイッチが切れて、眠りに入るような単純なものではありません。日々のストレスで心が動揺し、もっと言うと、将来の計画や希望だけでなく不安、過去の嫌な思い出、辛かったこと、そういったことで、もどかしい、満たされない気分になることもあります。そのような私たちの心に、ストレスが続いたり、大きく環境が変わると、心の緊張が取れず、不眠症をきたします。夜1人になると、のんびりするどころか、孤独を感じたり、虚しさを感じる、それが現代人の不眠の特徴です。最後に一言付け加えると、リラックスの延長が睡眠です。不眠で悩まれている方は、自らに言い聞かしてください。「私は、ストレスがかかって疲れている。今は悩む時間でない、それよりも心を休めよう、もう少し、のんきになろう!」と少し前向きにとらえてください。
最後に
私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。
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