うつ病がは古くからメランコリアと呼ばれ

様々なストレスが関係する

心療内科医としてのアドバイス


うつ病とストレスついての説明と治療及びアドバイス

うつ病とは

 

うつ病とは古くから メランコリア と呼ばれ、寂しさや悲しみに襲われ、憂鬱で不安な状態が続く心の病気です。心のエネルギーが、乏しくなって、集中力、判断力、意欲が低下するだけでなく、自分自身が小さくなってしまうような自己縮小感や「いっそのこと、自分なんて消えてしまいたい。」など自己否定感も生じます。心の中に、ぽっかり穴が空いたような空虚感。見るもの、聞くもの、触れるものに生き生きとした現実感が持てない、「ピンとこない。」そんな違和感が生じることもあります。また心配事が次々に浮かび不安になって眠れない、眠たっとしても、眠りが浅くちょっとした物音でも覚醒し熟睡感が得られません。反対に、寝ても寝ても疲れが取れないといった過眠障害も生じることもあります。このような症状は2週間以上続き、さらに身体面の不調も生じます。口が渇く、喉がつかえる、胃がもたれる、めまい耳鳴りがする、このような多彩な症状が、現れます。

 

 

出口の見えないトンネルの中にいる

 

大切な何かを失う、あるいは失うであろうと言う虚しさが、心の中を覆い、まるで“出口の見えない、トンネルに入り込んで抜け出せない”そのような、重ぐるしさが心の中を支配します。自分を卑下し、考えもまとまらない といった閉塞感も強く感じます。無口になり表現力も乏しくなって、どこが?どんなふうに?辛いのか、苦しいのか、はっきり説明できません。そのため周囲の人は、患者さんを理解できず、戸惑います。こうしたことから、徐々に孤立し、自分の殻に閉じこもるようになります。

 

うつ病の原因について

 

一口にうつ病といっても、その原因や背景は様々です。脳生理学や薬理学の研究では、脳内の伝達物質の変調が、うつ病の原因と言われています。しかしそれだけではありません。現実のストレス、過去の辛い出来事、環境の変化、それにストレスを溜めやすい性格が、複雑に関係します。その意味で、とても人間的な病気といえます。

 


ストレスと軽症うつ病

 

心療内科には、比較的症状が軽いうつ病の患者さんが来院されます。さほど落ち込んだ表情はなく、ときには愛想笑いもしますが、不安を感じています。また仕事や家事もなんとかこなせます。ところが、本来の調子ではありません。よく話を聞くと、出社しても、「考えがまとまらず、仕事にならない。」「人と接するのも疲れる。」「将来のことを考えると、悲観的になる。」「今まで簡単にできたこともできない。」と症状について訴えます。軽症うつ病はストレスが大きく関係します、そのストレスとは喪失体験です。 両親や配偶者。恋人との別離、自分を取り巻く環境が変わる、例えば自分の地位や職種が変わる、転勤などの変化も、大きく関係します。軽症うつ病は、重度のうつ病に比べると、症状こそ軽いですが、長い間症状に苦しめられます。ときには、2年以上うつ状態が続くこともあります。一時的に、気分が楽になる時もありますが、すぐにぶり返します。症状が軽いといっても、ストレスが解決しなければ、「消えてしまいたい、死にたい。」と重症化することもあります。また、自責感のため転職したり辞職することもあります。

 

 

ストレスの溜めやすい性格とうつ病

 

うつ病では、性格も大きく関係します。今から3つの性格について説明します。最初は、完全さを求め、几帳面で律儀な人です、物事が計画通り進まないと、不安になり、自らを追い詰める性格です。次にプライドが高い人です。自尊心が強いため、たとえストレスで疲れても、メンツが邪魔して、弱音を吐かず、心の緊張が取れません。3番目、神経質な性格です。繊細で取り越し苦労が強く、心配性でストレスがかかるとマイナス思考に傾き、自分を卑下します。このようにうつ病になりやすい性格に、共通して言える事は、柔軟性を欠き、ストレスを軽く流せず深刻に受け止め、重苦しい気持ちになります。

 


うつ病のケア

 

うつ病の治療は、まず患者さんの訴えを傾聴します。症状だけでなく、原因、背景、ストレス因子を理解し、どのような治療が必要か考えます。治療の基本は、薬物療法とカウンセリングなどの心理的アプローチ、それに休養です。最初に薬物療法について簡単に説明します。

 

《薬物療法について》

こんにち、うつ病の治療においては、抗うつ剤や抗不安剤などが処方されます。抗うつ剤は種類が多く、医師は、症状に応じて、その中から薬を選択します。落ち着けない、イライラする、心配になる、そういった症状は薬を服用することによって、比較的早く改善されます。不眠に関しても、薬がよく効き、熟睡感が戻り、精神的な疲労感も少なくなってきます。しかし、意欲、気力に関しては、薬の効果はすぐには出ません。少なくとも、2週間ほど服用して徐々に改善してくると思ってください。中には1ヵ月以上かかる場合も少なくありません。残念なことに、医師の言うことを聞かず、処方以上にたくさん服用し、胃腸障害や眠気のような副作用が出現したり、反対に薬を飲むのをやめてしまって、症状が改善しない場合もあります。その一方で、「先生、カウンセリングだけでうつ病を治して下さい。薬に頼るのではなく、自分の力で治したいんです。」と主張される方もいます。全くわからないと言う訳では無いのですが、うつ病治療の比較研究の中で、心理療法だけでうつ病を治療した場合と、薬物療法と心理療法を用いて治療した場合の治療効果は、全く違います。心理療法だけで治療を進めていくと、症状が改善するよりも長引き、症状が悪化することが検証されています。こんにち、うつ病治療では薬物療法は、必要不可欠です。次に心理カウンセリングなどの心理的なアプローチについて説明します。

 

《心理療法(精神療法)について》

心理療法の基本は、まずうつ病についての一般的な説明を行い、患者さんに病状を理解していただきます。次にストレスや、不安なことを傾聴し、疲れた心を支えます。そして治療者は、「あせらず、心を休め、治療すれば必ず良くなる。」と保証します。しかし時には、ストレスが強い患者さんは、「早く良くなる方法を教えてください!」と早急な解決策を求められます。受容し心をサポートするようなカウンセリングは、歯がゆく感じるようです。「急がば回れ。」のようにあせらず、不安を弱めていただくことが大切です。と言うのは、症状は一進一退を繰り返し、すぐには良くなりません。もし、症状が改善しない時は、思い切って休職してください。

 

休養してストレスを弱める

 

“いつ休養すべきか”その判断は、経過を見て決める必要があります。

 

・抗うつ剤を服用しても、症状が改善しない時

・不安や自責感が強い時・自殺念慮が生じている時

・単身赴任などで、孤独感が強い時

 

このような場合は、診断書を書いてもらって、休養してください。少なくとも、2ヶ月から3ヶ月間休職し、ストレスを避ける必要があります。 


心療内科医としてのアドバイス

 

最初に、患者さんに注意していただきたいことを説明します。「もう症状がよくならないのでは?」「こんな症状になった自分が情けない。」このように、自分を追い詰めてはいけません。それは本当の自分の思いではなく、うつ病の症状が、自分を苦しめていると理解してください。

 

 

患者さんの心構えについてアドバイス

 

次に医師から、こうして欲しいことを列挙します。

  • まずよく寝てください。そして十分に栄養とって下さい。そして生活リズムも規則正しくしてください。
  • 「なぜ、うつ病になったのか?」原因を、考えすぎないでください。
  • 自分に優しく、自分自身をいたわってください。そのために、自分の長所、持ち味について考え、今までの “ 自分の努力 “ “ 自分の誠実さ ” を思い出してください。
  • 仕事に関しては、上司に正直に病状ついて話し、仕事の量を少なくしたり、ストレスをかけすぎないように、環境調節してもらってください。
  • 症状が改善するまで、生活を大きく変えるのはよくありません。例えば、転職、 辞職、引っ越し、 別居 、中退 。早まった決断は避けましょう。というのは、判断力、思考力がうつ病によって、とても落ちているからです。後で後悔します。
  • 少なくとも、3ヶ月間はゆっくりするような気持ちを持ってください。仕事も家事も全力投球ではなく、トーンダウンしていってください。「今は頑張る時ではない、できるだけ心と体を休めなければいけない。」と自分自身に言い聞かしてください。
  • これはとても大切なことです。「どんなことがあっても自殺はしない!」と医師だけでなく、家族にも約束しなければいけません。
  • 心配事に関しては、自分ひとりで抱え込まない、無理しない、1人で解決しようとしない、信頼できる人に相談し、任せられる事は任してください。

 

 

休養中のアドバイス

 

 うつ病になると朝起きるのが、とても辛くなります。そのため昼まで布団の中で過ごし、夜更かしして昼と夜が逆転することがあります。生活リズムが、不安定になると、心の回復力がとても落ちます。ですから、起床時間入眠時間はできるだけ同じ時間にして、ずらさないようにしましょう。次に注意すべきことは、人目を気にして、外出がとても嫌になります。健康な人でも、1日中部屋にこもっていると、悲観的になります。少なくとも1日30分から1時間位ぐらいは家から出て、少し散歩しましょう。街ををぶらぶらするのも良いでしょう。休養中の最初の頃は、仕事や職場の人間関係が心配になります。「自分の仕事は一体誰がしてるのか?みんな自分のことをどう思ってるのか?」など気になります。「今は休養中である。元気になれば、また頑張って仕事すれば良い!」と自分自身を、納得させてください。また日記をつけてみましょう。感じたこと、思いついたことを、書き出してみましょう。そうすると心の中が 、変化していくことが、わかるだけでなく、自分自身を客観的に見つめるようになります。

 


回復期のアドバイス

 

症状が改善したときは、本来の生活に戻る準備をしましょう。

 

例えば、

 

・身の回りのことは自分でする

・電車に乗って通勤の練習をする

・上司に連絡を取り、症状が改善したことを報告し、職場での環境調節をしてもらう

 

特に注意してもらいたいのは、復職した時は、ブランクを取り戻そうとして、頑張りすぎて、そのため症状が悪化することがあります。焦らないでください。それよりも低空飛行で、職場に慣らしていくようにしてください。

 

 

家族へのアドバイス

 

うつ病になると、心の余裕を失い、自分のことだけでなく家族のことも考えられません。そんな患者さんに対して、家族は感情的になり、口論になることもあります。どうしていいのか戸惑い、疲れ果て、共倒れになるケースも見られます。家族もあせらず「必ず良くなると!」希望を持って、暖かく見守ってください。そうすると、「自分には、大切な家族がいる!」と自覚するようになり「必ず本来の自分に戻れる!」と希望の光が患者さんの心の中にさしてきます。

 

 

まとめとして

 

精神的なストレスが心に蓄積し、無意識のうちに、許容範囲を超えてうつ病やうつ状態をきたすのは、目まぐるしく変化する現代社会では、決して珍しい事ではありません。いわんや、他人事でもありません。うつで悩んでいる方があなたの周りにもいると思います。うつ病は本人の努力と、医師の治療だけでは不十分です。周りにいる人が、病状を正しく理解し、温かく支え、不安や焦りを少なくするような気配りや配慮が必要です。

 

最後に

私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。